平成30年3月8日
原子力関連学協会規格類協議会
日本機械学会 発電用設備規格委員会
日本原子力学会 標準委員会
日本電気協会 原子力規格委員会
1. は じ め に
東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「福島第一事故」という。)から約7年が経過し,その間,国及び産業界ではシビアアクシデント対策を含む原子力安全の向上に関する検討や対策が進められましたが,現在に至るも原子力利用をめぐる情勢は依然として厳しく,原子力発電所の運転再開に向けて関係者の懸命な努力が続けられています。
しかしながら,地球温暖化対策やエネルギー安定供給等を考えると,原子力の持つ優れた特質を考慮した真に科学的,技術的な分析に基づいた冷静な議論と判断が求められるところと考えます。その上で原子力事故の発生防止,拡大防止並びに影響緩和のために必要かつ適切な手段を講じて原子力の有効活用を図ることが必要ではないかと考えます。
私ども原子力関連学協会規格類協議会(以下,「学協会規格協議会」という。)は,平成24年3月に福島第一事故を踏まえた学協会規格策定活動の一層の強化に関し,学協会規格協議会3委員長のステートメントを発信しました。今回のステートメントでは,その後の環境条件の変化を踏まえ,学協会規格策定の更なる充実,強化の取組み方針について述べます。
2. 学協会規格の意義及び役割の再確認
① 学協会規格協議会を構成する各委員会(以下,「各学協会」という。)は,学協会規格策定プロセスの公平,公正,公開の原則の下,参画する委員のコンセンサス及び公衆審査を経て学協会規格を策定することとしており,これを安全性向上に役立てることは我が国の共通の利益と考えています。
② 各学協会は,それぞれの分野における専門家の集団であり,我が国の最高レベルの学術的知見と技術を結集し,最新の知見を学協会規格に適時かつ適切に反映しており,最新レベルの学術的知見・技術の活用において中心的な役割を果たしています。
③ 学協会規格は安全性向上に資する知慧の体系であり,規制は,学協会規格の迅速な利用により安全規制の高度化を図ることができ,また産業界は,現場の状況等を適切に反映した学協会規格の活用により効果的かつ効率的に自主的安全性を向上させることができます。
3. 福島第一事故以降の学協会規格協議会の対応と課題
(1)福島第一事故以降の学協会規格協議会の対応
福島第一事故を契機に,学協会規格協議会では,福島第一事故の反省を踏まえた既存の規格・指針類体系の再整理や新たな領域での規格基準整備にも積極的に取り組むべく,平成26年3月に学協会規格整備計画を策定して精力的に活動を続けてきました。今般, 原子力規制委員会が受けたIAEAのIRRS1で指摘された課題から浮かぶ,リスク情報を活用した事業者の自主的安全性向上の取組みを前提に,それら課題への対応や検査制度の見直し等にも積極的に対応するため,事業者との意見交換を行いながら前記の整備計画の見直しを行いました。
(2)福島第一事故以降の関係組織の対応
原子力規制委員会では,従来は学協会規格の活用に慎重な姿勢を示していました。しかし,IRRS に指摘された課題のうち検査制度の見直しに関して,検査制度を事業者の自主的安全性向上の取組みを前提に従前の審査型から監査型に移行するとの抜本的考え方の変更が行われることになりました。これを受けて事業者における学協会規格の活用が明確に打ち出され2,学協会規格の果たすべき役割は明確にされ,一層拡大しているものと認識しています。
資源エネルギー庁では,原子力の自主的・継続的な安全性向上の取組みにおけるリスクマネジメントやピアプレッシャー3等の機能の重要性,これらの機能を実現していくためのロードマップを関係ステークホルダーで共有しました。産官学の全てのステークホルダーが取組むべきロードマップは原子力学会との共同で策定しています4。現在は,これらのシステム全体を有効に機能させていくため産業界に必要とされる機能・役割の検討を進めています。
原子力委員会では,「責任ある体制のもと徹底したリスク管理を行った上での適切な原子力利用は必要である」との認識の下で,今後取組むべき重点的取組とその方向性を検討した報告書において,「ゼロリスクはないとの認識の下での不断の安全性向上」を提言しています5。
4. 学協会規格策定活動の強化
学協会規格協議会では,以上の情勢に鑑み,福島第一事故の教訓を踏まえてこれからの10年を展望し,学協会規格の整備計画を見直し,一方で,原子力安全に関わるステークホルダーの一員として,学協会規格策定組織の強化,学協会規格の品質向上を図るための検討を加速すること,そして,学協会規格協議会の関係ステークホルダーに対して公平,公正,公開の原則の下で活動する学協会規格策定の場の活用を強く働きかけていくことを合意しています。
(1)ステークホルダーとのインターフェイスの改善
・各学協会の,原子力安全の更なる向上に関する責任,役割,義務についてさらに明確化します。
・学協会は,原子力の学協会規格に関連する国内外の民間団体や関係機関との意見交換や連携の充実を図ります。
・新しい規制の枠組みにおいては,国の規制基準と学協会規格の相互補完関係の構築が重要であることから,規制との意見交換や連携の充実を図ることに取り組みます。
・ステークホルダー間の情報共有,信頼醸成を図り,公平,公正,公開の原則の下で機能する学協会規格の場の活用を強く働きかけ,学協会規格の活性化,高度化を図っていきます。
(2)緊急度や重要度に応じた優先度に基づく学協会規格整備計画の見直しと策定活動の推進
・既存規格については規制による技術評価に迅速・適切に対応すると共に,新知見に係る要件等のタイムリーな反映など規格の維持・改善に努めます。
・新規制基準適合性審査プロセスを通じて決められた安全性向上に関する諸対策を学協会規格に積極的に反映します。その際,安全重要度や学協会規格のユーザの要望等を基に優先度を見極めながら推進します。
・検査制度見直しに対応して,事業者の自主的安全性向上の取組みにおいて risk-informed,performance based の考え方に沿って効果的かつ効率的に安全性向上を図れるよう,体系化を念頭に,さらに検討を深め,必要な規格の制定・改定を最優先に推進します。
・検査制度見直しの本格運用開始後においても,その経験を逐次規格に反映していきます。
(3)規格の高度化と品質向上への取組み
・IAEA 等の国際安全基準に一層の目を向けて,これらとの調和を積極的に図っていきます。
・学協会規格の体系化を目指すとともに,体系化に沿った学協会規格の見直し・策定を迅速に進めることとします。また,見直し・策定にあたっては新知見を迅速に反映していきます。
・学協会規格策定の公平性,公正性,公開性の一層の強化を図るため,学協会規格策定の適正なプロセスに関するピアレビューの導入の検討,技術倫理の徹底などを進めます。
5. まとめ
原子力施設の安全性の向上には,IRRS の課題から横断的に浮かぶ,リスク情報を活用した事業者の自主的安全性向上の取組みを前提とする必要があります。その上で,原子力安全の目的を頂点とする統一された安全の考え方に基づき,リスク重要度の視点から,科学的合理性,論理性,整合性を持つ規格基準体系に沿って設計,建設,運転,廃止措置,廃棄物の処理・処分等が行われる必要があります。更に,新知見はタイムリーに反映されなければなりません。
そのためには,産官学の全てのステークホルダーが公益性,自発性,無償性のボランティア精神6の下に参画して,公平,公正,公開の原則の下,意思決定の独立性を確保しながら,コンセンサスを得て最新,最高レベルの学協会規格7を効果的,効率的に策定し,活用する仕組みができている必要があります。学協会規格協議会としては,原子力安全の更なる向上を目指して自らを厳しく律して上記の4章の学協会規格策定活動の強化を図っていくことを合意しています。また,これらの取組みを通じて人材育成,基盤強化にも努めていきます。
原子力安全を目指す国,産業界など全てのステークホルダーが学協会規格策定活動に積極的に参加いただけることを期待しています。
以上
1:Integrated Regulatory Review Service(総合規制評価サービス)
2:検査制度の見直しに関する中間取りまとめ案(H28.11,検査制度の見直しに関する検討チーム)
3:ピアプレッシャーとは仲間の先進的な取り組みから自らの遅れを知り,自ら改善に取り組む動機付けとなるもの
4:原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言,H27.5,総合資源エネルギー調査会 自主的安全性向上・技術・人材WG
5:原子力利用に関する基本的考え方,H29.7,原子力委員会
6:ボランティアの定義には,「仕事,学業とは別に地域や社会のために時間や労力,知識,技能などを提供する活動」(平成 12 年度国民生活選好度調査),「報酬を目的としないで,自分の労力,技術,時間を提供して地域社会や個人・団体の福祉増進のために行う活動」(平成13年度社会生活基本調査)などがある。概ね,公益性,自発性,無償性を原則とすることには共通理解がある。
7:学協会規格は米国では Voluntary consensus standardsと言う。その定義は,Openness,Balance,Due process,Appeals process,Consensus の原則に沿って民間の規格策定組織によって作成されたものとされている。(OMB Circular A-119)